「卵子提供における心理支援を考える会」  理念  

 

生殖医療技術は、1978年イギリスで初めてヒトの体外受精・胚移植に成功し、瞬く間に全世界に普及した。日本では、1983年体外受精により、1992年顕微授精によりそれぞれ初の子が誕生して以来広く行われており、年間約2万人の体外受精児が出生しているといわれている。現在日本では、生殖補助医療を規制する法律は存在しない。日本産科婦人科学会の会告に準拠し、医師の自主規制の下で配偶者間および非配偶者間の人工授精や夫婦間の体外受精が行われているのが現状である。

 

一方で、第三者の精子を用いて人工授精するAIDは、60年以上の歴史があり、1998年頃からは、兄弟姉妹の精子や卵子を用いた体外受精、第三者からの卵子提供による体外受精の報告が相次いでみられるようになった。しかしながら、AID以外の第三者配偶子を用いる治療は国内で受けることが困難な状況で、そのような治療を望むカップルは米国など国外に渡航し治療を受けているのが現状である。

 

日本人が国外で、第三者配偶子を用いる治療を受けたケースは、少なくとも1000例程度あると推測されている(AIDを除く)。この現状に対し、生殖補助医療の在り方、生殖補助医療により出生した子の取り扱いについて多くの議論が提起されているが、法律制定までに至っていない。カウンセリングについては、厚生科学審議会生殖補助医療部会において、カウンセリングの内容、カウンセリングの機会保障について明言されており、また、生殖医学会倫理委員会報告では「十分な時間を費やしたカウンセリングを受けることを義務づけるべき」と提言されているにも関わらず、カウンセリング体制整備および患者のニーズに合った心理支援のあり方についての具体的な議論がなされていないのが現状である。加えて、現在国内では、数施設で卵子提供による治療が実施されていると考えられるが、これらの施設においてアセスメントを主目的としない心理支援が行われているのかどうかは、検討の余地がある。

 

第三者配偶子を用いる治療では、さまざまな心理的問題が生じることが考えられる。それはレシピエントとなる当事者だけではなく、ドナーやそれぞれの家族、また出生した子どもにも関わってくる問題である。

たとえば、姉妹間での卵子提供の場合、実母がすぐ近くにいることが社会的親、子へどのような心理的影響を与えるのか、あるいは出産で祖母が孫を産むことが子にどう影響するかなどは未知の部分が多く、遺伝的つながりのない子を出産した場合の育児は、そうでない育児とどう違うかなどもよく分かっていない。

 

その他にも、配偶子を提供するドナーに対し、レシピエントによる圧力の有無やドナーの動機づけの問題、あるいは提供配偶子の所有権の問題など、考慮すべき点は多々ある。最も懸念されるのは出生した子の福祉であるが、児の出生後に起こりうる心理的葛藤にはどのようなものが考えられるかなども分かっていないばかりか、心理支援の体制も整っていない。特に、出自の告知に関わる問題に関しては、子の人格形成すなわち人生に影響を与えることで、今後告知を行うべきかそうでないかという議論に留まらず、当事者への心理支援を最重要課題として考慮していかなければならない問題であろう。

 

現在、これらを相談する機関および心理支援を行う施設が皆無なことも大きな問題であることから、不妊体験者への心理支援を専門とする生殖心理カウンセラーが中心となり、これらの問題に対するカウンセリングの在り方を十分に検討し、心理支援体制の整備に取り組む必要があると考える。卵子提供・代理出産に対し、中立性を保ちながらも当事者の意思を尊重し、どのような選択を行っても、共に考え継続的に支援を行っていくという、専門家による心理支援体制作りの実現をこの会の目的としたい。